「社内に行政書士がいるから大丈夫」は本当か─登録支援機関の運用見直しと3つの構造パターン

calendar-icon 2026/05/07

「社内に行政書士の方を採用しました。これで入管申請も内製化できるので安心です」

登録支援機関のコンプライアンス相談で、よく耳にする説明の一つです。

なお、本記事における「登録支援機関」とは、行政書士又は行政書士法人としてではなく、非行政書士・非行政書士法人の法人として登録支援機関業務を行う事業者を指します。

しかし、令和8年1月に施行された改正行政書士法のもとでは、この体制は構造的な課題を抱える場合があります。

本記事では、概要記事の事例1で取り上げた「社員に行政書士がいるからコンプライアンスは大丈夫」というケースについて、より詳細に整理した上で、リスクを下げるための代替構造を3パターン併記する形で提示します。


こんなケース、ありませんか?

「ベテランの行政書士の先生を社員として迎え入れまして、書類作成からオンライン申請まで全部社内で完結できる体制になりました。お客様にも『社内に専門家がいる安心感』ということで好評です」

「外部の行政書士事務所さんに依頼すると、毎回コミュニケーションコストがかかるんですよね。社内なら、現場の状況を把握している人間がそのまま書類化できるので、品質もスピードも全然違います」

実務上、特定技能制度の受入れ支援件数が増えるにつれて、在留手続や支援業務に詳しい社内人材を配置する登録支援機関も見られます。ベテラン行政書士が転職してきた、社員が資格を取得した──きっかけは様々ですが、結果として「社内に資格者がいる」という状況になるケースは少なくありません。

そして、登録支援機関の経営層からすれば、これは合理的な経営判断に見えます。社内人材を活用することで外注コストが削減できる、現場との連携がスムーズになる、お客様への提案力も高まる──事業上のメリットは明確です。

「資格者がいるんだから、行政書士法違反の話とは無縁だろう」

「むしろ法令を熟知した者が社内にいる以上、コンプライアンスは強化されているはず」

このような発想も、感覚的にはごく自然なものです。

しかし、行政書士法上の問題は、単に「資格者がいるかどうか」では決まりません。

重要なのは、誰が依頼を受けているのか、誰が報酬を受け取っているのか、誰の業務として官公署提出書類を作成しているのか、そして行政書士としての独立性が確保されているのか、という点です。


第一の論点:職務基本規則第7条第2項

行政書士職務基本規則第7条第2項は、以下のとおり明示的に規定しています。

行政書士は、行政書士の身分を有したまま、団体、法人等に雇用され当該法人又は団体等に行政書士の業務を行わせてはならない。

この規定が問題視しているのは、「行政書士が会社員として在籍していること」自体ではありません。

問題とされるのは、会社が顧客から受託した行政書士業務を、自社に雇用されている行政書士に処理させる構造です。

具体的な業務の流れに即して整理すると、以下のような構造が想定されます。

  1. 顧客である所属機関が、登録支援機関に対して、書類作成まで含む在留資格申請関連業務を依頼する
  2. 社内の従業員である行政書士が、書類作成を処理する
  3. 完成した書類が、登録支援機関の業務として顧客に納品される

このとき、書類作成行為を実際に行っているのは従業員である行政書士本人であっても、業務全体の主体は登録支援機関である法人と見なされる可能性があります。

これは、職務基本規則第7条第2項がいう「法人等に行政書士の業務を行わせる」構造に該当し得るものです。

なお、登録支援機関が、進捗管理、資料回収、連絡補助、生活支援、受入れ機関との調整などの周辺業務を行うこと自体が直ちに問題となるわけではありません。

問題となるのは、官公署に提出する書類の作成までを、登録支援機関自身のサービスとして顧客から受託する構造です。


第二の論点:職務基本規則第2条「自由独立公正」との関係

行政書士職務基本規則第2条は、行政書士が職務を行うにあたって、職責を自覚し、自由独立公正の立場を保持すべきことを定めています。

また、改正後行政書士法第1条の2第1項も、行政書士が「公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」という職責を明文化しました。

雇用関係下にある従業員は、雇用主の指揮命令に従う立場にあります。

しかし、行政書士業務の遂行にあたって、雇用主の利益と依頼者の利益が相反した場合、例えば雇用主が無理な申請内容を求めた場合に、雇用先の行政書士が雇用主の意向を排して、依頼者本位の判断を貫けるかどうかについては、構造的な疑問が生じます。

評価上は、実際に利益相反が生じたかどうかだけでなく、独立性を保てる構造が確保されているかどうかも重要になります。


第三の論点:改正後行政書士法第19条第1項違反のリスク

改正後行政書士法第19条第1項は、行政書士又は行政書士法人でない者が、「他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として」第1条の3に規定する業務を行うことを禁じています。

本記事で対象としている登録支援機関は、行政書士又は行政書士法人ではありません。

したがって、登録支援機関が顧客から報酬を得て、官公署提出書類の作成業務を引き受ける構造は、たとえ実際の作成行為を行っているのが雇用されている行政書士であったとしても、法人による非行政書士業務と評価される余地があります。

総務省通知(総行行第281号・令和7年6月13日)も、「手数料」や「コンサルタント料」等、どのような名目であっても、対価を受領して、業として、官公署に提出する書類等を作成することは違法であるという現行法解釈を、今回の改正で条文化したものと説明しています。

また、両罰規定により、行為者本人に加えて、法人にも罰金が科され得る構造となっています。


補足:書類作成と申請取次は区別して考える必要がある

ここで注意すべきなのは、「書類作成」と「申請取次」や「オンライン申請における提出行為」は、法的には区別して整理する必要があるという点です。

登録支援機関の職員や所属機関の職員が、一定の要件のもとで申請等取次者として手続に関与できる場合があります。

しかし、それはあくまで入管手続における取次・提出行為の問題であり、非行政書士・非行政書士法人である登録支援機関が、顧客から報酬を得て、官公署提出書類を業として作成してよいという意味ではありません。

つまり、「申請を取り次げること」と「報酬を得て書類を作成できること」は、別の問題です。

この区別を曖昧にしたまま、「社内に申請取次ができる人材がいる」「オンライン申請ができる体制がある」という理由で、書類作成まで自社サービスとして受託してしまうと、行政書士法上のリスクが残ります。


例外的に許容される構造はあるか

「では、社内に行政書士がいる構造はすべて違反になるのか」

ここは慎重に整理する必要があります。

社内に行政書士資格者がいること自体が直ちに違法になるわけではありません。

問題は、その資格者が、誰の業務として、どのような指揮命令関係のもとで、官公署提出書類の作成に関与しているかです。


ケース1:従業員が資格を保有しているだけで、行政書士業務に活用していない場合

例えば、従業員が行政書士資格を持っているものの、現在は行政書士登録をしておらず、登録支援機関の従業員として、支援業務、受入れ機関との調整、資料回収、進捗管理、社内確認、情報整理などに従事している場合は、行政書士職務基本規則の直接の規律対象にはなりにくいと考えられます。

資格保有自体は問題ではありません。

ただし、この場合でも、当該社員が顧客から依頼された在留申請書類、届出書類、理由書、説明書その他の官公署提出書類を実質的に作成する場合には、登録支援機関側に行政書士法第19条違反の問題が生じ得ます。

したがって、許容されるのは、登録支援機関としての支援業務、社内確認、情報整理、資料回収、連絡補助、作成補助等にとどまる範囲と整理すべきです。


ケース2:登録支援機関でもある会社が、所属機関として自社雇用の外国人について申請する場合

改正後行政書士法第19条第1項は、「他人の依頼を受け」ることを要件としています。

登録支援機関でもある会社が、所属機関として、自社で雇用する外国人について自ら申請を行う場合、形式上「他人の依頼を受けて」いるとは評価されにくく、論点が異なります。

ただし、登録支援機関の本来業務は、他社である所属機関から委託を受けて支援業務を行うことです。

自社案件と他社案件は、必ず分けて考える必要があります。

特に、グループ会社、関連会社、取引先、顧客企業の案件を「実質的に自社に近いから」といった理由で自社案件と同様に扱うことは危険です。法人格が異なる以上、原則として「他人の依頼」性が問題になります。


ケース3:実態として法人とは独立した形で業務を行っている場合

雇用先の行政書士が、勤務先法人の業務とは完全に独立した形で、自身の行政書士事務所として、申請人又は入管法上の代理人から直接依頼を受けて業務を行っている場合は、職務基本規則第7条第2項の規定外と整理できる余地があります。

ただし、独立性は形式だけでは足りません。

契約主体、請求主体、報酬の流れ、事務所の実体、業務時間、指揮命令系統、顧客への説明、情報管理などを総合的に見て、勤務先法人とは別個独立した行政書士業務として運営されている必要があります。

この点については、後述のパターンBで詳しく整理します。

つまり、「社内行政書士の活用」が一律に違法というわけではありません。

ただし、業務委託の構造、契約主体、独立性の有無によって評価が変わるというのが、正確な整理です。


リスクを下げるための代替構造:3つのパターン

社内に行政書士の資格者を抱えながら、職務基本規則・改正後行政書士法との整合性を保つには、以下の3つのパターンが考えられます。

なお、いずれも形式だけでなく、実態を伴うことが前提です。

また、行政書士職務基本規則第61条第3項は、申請取次行政書士が「申請人又は入管法上の代理人から直接依頼を受けることなく、第三者を介して依頼を受けた申請取次をしてはならない」と規定しています。


パターンA:外部の独立行政書士事務所と連携する

登録支援機関は、登録支援機関としての支援業務、受入れ機関との調整、資料回収、進捗管理、連絡補助などに専念します。

一方で、官公署に提出する書類の作成、申請方針の判断、理由書・説明書等の作成、申請取次については、申請人又は入管法上の代理人が、外部の独立行政書士事務所へ直接依頼する構造にします。

登録支援機関は、行政書士の紹介、日程調整、資料授受の補助、連絡補助など、行政書士業務には踏み込まない程度の範囲にとどめます。

ただし、資料の不足判断、記載内容の選択、申請方針の判断、提出書類の法的評価は、行政書士又は依頼者本人側で行う必要があります。

登録支援機関は、行政書士の指示に基づく連絡・回収補助にとどめることが重要です。

観点内容
メリット構造的に最も明快で、コンプライアンスリスクを下げやすい
デメリット案件ごとの連携工数が発生する。連絡補助の範囲を超えないための運用設計が必要



パターンB:資格者本人が、勤務先法人とは独立した行政書士事務所として受任する

社内に行政書士資格者がいる場合に検討され得る構造です。

ただし、代替案の中で最も運用難度が高い構造でもあります。

このパターンでは、社内に資格者がいる場合でも、その者が会社の従業員として会社の受託業務を処理するのではなく、勤務先法人とは独立した行政書士事務所として、申請人又は入管法上の代理人から直接依頼を受ける構造を整える必要があります。

この構造は、形式だけでは足りません。

会社が案件配分、価格決定、請求、業務指示、成果物管理を実質的に支配している場合には、独立性が否定されるリスクがあります。

具体的には、以下のような要素が問われます。

  • 行政書士事務所としての実体が確保されているか
  • 事務所所在地が登録支援機関とは別に確保されているか、又は同一所在地であっても、物理的区画、表示、契約主体、報酬の流れ、情報管理、顧客への説明等により、登録支援機関の一部門ではなく独立した行政書士事務所としての実体が明確に確保されているか
  • 報酬は行政書士事務所の独立した収入として管理されているか
  • 業務時間、すなわち雇用としての勤務時間と、行政書士事務所としての業務時間が明確に切り分けられているか
  • 登録支援機関が、行政書士業務の価格、納期、処理方針を指揮命令していないか
  • 登録支援機関が、行政書士報酬を自社売上として計上していないか
  • 顧客に対して、行政書士業務の提供主体が登録支援機関であるかのように表示していないか
  • 行政書士業務の実績や売上が、勤務先法人における人事評価、給与、賞与と連動していないか
  • 勤務先法人の顧客情報を、本人同意、契約、個人情報管理上の整理なく行政書士事務所側で利用していないか

このパターンで最も危険なのは、表面上は「行政書士本人が直接受任している」ように見せながら、実際には登録支援機関が案件を獲得し、行政書士に社内処理させているケースです。

この場合、実質的には登録支援機関が行政書士業務を提供していると評価されるリスクがあります。

観点内容
メリット既存人材を活かしつつ、法的整理が可能となる余地がある
デメリット形式と実態の両面で独立性を担保する設計負担が大きく、誤解されやすい



パターンC:独立した行政書士法人と連携する

行政書士法人を活用する場合でも、登録支援機関が行政書士法人を子会社のように保有・支配する構造ではなく、行政書士が社員として設立・運営する独立した行政書士法人との連携として整理する必要があります。

行政書士法人は、登録支援機関とは別個の法人格、会計、契約、業務執行体制を持ち、行政書士法人自身が依頼者と直接契約し、報酬を受領する構造が前提になります。

なお、ここでいう「社員」は、従業員ではなく、行政書士法人の構成員を意味します。

行政書士法上、行政書士法人の社員は行政書士でなければならず、登録支援機関である株式会社等が行政書士法人を「子会社」として保有する形態は想定されていません。

また、行政書士法人の社員は、業務執行権や代表権を持つ立場にあり、外部の会社が支配的に関与できる構造ではない点も、設計上の前提となります。

行政書士法人は一人法人として設立することも可能ですが、その場合でも、登録支援機関が出資者や株主のように保有する構造ではありません。

観点内容
メリット組織として明確に分離でき、規模拡大にも対応しやすい
デメリット設立・運営コスト、社員となる行政書士の確保、会計・契約・業務執行体制の分離、登録支援機関による実質支配と評価されないための設計負担がある



どのパターンを採用すべきか

いずれのパターンを採用するかは、規模、案件数、人材構成、コスト構造によって異なります。

重要なのは、「社内に資格者がいるから大丈夫」という前提を一度立ち止まって整理することです。

具体的には、自社の構造が次のどれに当たるのかを確認する必要があります。

  • 外部の独立行政書士事務所と連携しているのか
  • 社内の資格者が、勤務先法人とは独立した行政書士事務所として直接受任しているのか
  • 独立した行政書士法人と連携しているのか
  • それとも、登録支援機関自身が顧客から書類作成業務を受託し、社内の行政書士に処理させているのか

最後の構造に近い場合は、改正後行政書士法および行政書士職務基本規則との関係で、見直しが必要となる可能性があります。


おわりに:社内行政書士を抱える登録支援機関のチェックポイント

社内に行政書士の資格者がいる登録支援機関の経営者・コンプライアンス担当者の方は、以下の点を改めてご確認ください。

  • 契約主体は誰と誰の間で締結されているか
  • 業務遂行にあたって、行政書士の独立性が担保される構造か
  • 事務所、業務時間、指揮命令系統は適切に切り分けられているか
  • 顧客向けの見積書、契約書、請求書、LP、営業資料などで、行政書士業務の提供主体が誰であるかが正しく表示されているか
  • 登録支援機関が、資料回収・連絡補助を超えて、申請方針の判断、理由書作成、提出書類の法的評価に踏み込んで書類の作成をしていないか
  • 「申請取次ができること」と「報酬を得て書類作成ができること」を混同していないか

これらを整理した上で、必要に応じて、パターンA〜Cのいずれかへの移行を検討されることをお勧めします。


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【関連規定】

  • 行政書士職務基本規則第2条、第7条第1項・第2項、第61条第3項
  • 改正後行政書士法第1条の2、第1条の3、第13条の3、第13条の5、第13条の12、第13条の13、第19条第1項、第21条の2、第23条の3
  • 総務省通知(総行行第281号・令和7年6月13日)

本稿は一般的な法令の解釈整理を目的としたものであり、個別具体的な事案に対する法的助言を構成するものではありません。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士・行政書士にご相談ください。

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