「馴染みの行政書士に取次だけお願いしているから大丈夫」は本当か
この記事の概要
- こんなケース、ありませんか?
- 問題点はあるのか
- 第一の論点:名義貸しの禁止(職務基本規則第7条第1項)
- 第二の論点:「取次」が成立するための要件
- 第三の論点:登録支援機関側の第19条違反リスク
- 第四の論点:行政書士本人へのダメージ
- 第五の論点:両罰規定による法人へのリスク
- 例外的に許容される構造はあるか
- リスクを下げるための代替構造:3つのパターン
- パターンA:馴染みの行政書士に、書類作成から取次まで一貫して依頼する
- パターンB:役割分担を明確化し、書類作成の判断を行政書士に委ねる
- パターンC:申請人本人・所属機関が主体となり、行政書士が確認・取次を担う
- おわりに:「取次だけ」をお願いしている登録支援機関のチェックポイント
- 行政書士の実質的関与を仕組みで担保する
「うちは昔から付き合いのある行政書士の先生がいて、その方に取次だけお願いしているんです」─登録支援機関のコンプライアンス相談で、よく聞かれる説明です。
行政書士が関与している以上、行政書士法上の問題はクリアできているように見えます。しかし、「取次だけ」という運用の実態によっては、行政書士本人の名義貸しと、登録支援機関の非行政書士業務という二重の問題が生じる可能性があります。
こんなケース、ありませんか?
「長年お付き合いのある先生がいるので、書類は社内のスタッフが作って、最後の取次だけ先生にお願いしています。先生も忙しい方なので、細かいところまでは見ていただかなくて大丈夫、という関係でやっています」
「先生とは信頼関係ができているので、毎回内容を細かく確認してもらうのも申し訳なくて。こちらで書類を仕上げて、先生にはご確認とお名前をいただく、という流れが定着しています」
「先生が遠方にいらっしゃるので、申請人との面談もこちらで対応しています。先生には取次をお願いしている、という関係ですね」
長年の付き合いがある行政書士との間では、こうした「役割分担」が自然に定着していることがあります。先生の手を煩わせたくない、コストを抑えたい、スピードを上げたい─いずれも実務上の合理的な動機です。
そして「行政書士の先生が取次をしてくれている」という事実があると、「行政書士が関与しているのだから問題ないはず」という安心感につながります。
問題点はあるのか
しかし、「取次だけ」という運用は、その実態によっては複数の論点を生じさせます。
第一の論点:名義貸しの禁止(職務基本規則第7条第1項)
行政書士職務基本規則第7条第1項は、以下のとおり規定しています。
行政書士は、自ら職務を行わないで自己の名義を貸与し、その者をして職務を行わせてはならない。
行政書士が、書類の内容を実質的に確認・検討せず、登録支援機関が作成した書類について形式的に取次の名義だけを提供している場合、この「名義貸し」に該当する可能性があります。
「馴染みの先生」「信頼関係がある」という事情は、名義貸しの評価を否定する事由にはなりません。
第二の論点:「取次」が成立するための要件
申請取次行政書士は、職務基本規則および各単位会の規律により、本人確認、直接依頼の受任、申請内容の実質的な確認等の義務を負っています。
職務基本規則第29条第2項は、「行政書士は、事件の受託にあたり、依頼者等が本人であることを、面談等の適切な方法により確認しなければならない」と規定しています。同規則第61条第3項は、申請取次行政書士が「申請人又は入管法上の代理人から直接依頼を受けることなく、第三者を介して依頼を受けた申請取次をしてはならない」と定めています。
形式的に取次の名義を提供するだけで、申請内容の確認も本人確認も行っていない場合、それは制度が予定する「取次」とは評価されない可能性があります。
第三の論点:登録支援機関側の第19条違反リスク
このケースでは、書類作成を実質的に行っているのは登録支援機関です。行政書士又は行政書士法人ではない登録支援機関の場合、報酬を得て業として書類作成を行う構造は、改正後行政書士法第19条第1項違反となる可能性があります。
「行政書士が取次をしている」という事実は、書類作成の主体が登録支援機関であるという事実を覆すものではありません。
つまり、このケースは、行政書士側の名義貸しと、登録支援機関側の非行政書士業務が同時に成立し得る「合作」構造と整理されます。
第四の論点:行政書士本人へのダメージ
行政書士本人は、名義貸し(職務基本規則第7条第1項)違反として、所属単位会による調査・指導等の対象となるほか、都道府県知事による懲戒処分(業務停止・業務禁止)の対象となる可能性があります。
さらに、申請取次の届出受理が地方出入国在留管理局長によって取り消される可能性もあり、入管業務の継続に重大な影響を及ぼし得ます。
第五の論点:両罰規定による法人へのリスク
改正後行政書士法第23条の3により、第19条第1項違反等について、行為者本人に加えて、法人にも100万円以下の罰金が科され得ます(罰則:改正後行政書士法第21条の2)。
⚠ 注意:「取次だけお願いしているから大丈夫」という運用が違法と評価された場合、法人としての登録支援機関も処罰対象となり得ます。
例外的に許容される構造はあるか
「馴染みの行政書士に依頼すること自体が問題なのか」─もちろんそうではありません。
行政書士が書類を作成している場合
行政書士が、書類の内容を確認・検討し、必要に応じて修正・助言を行い、本人確認も適切に行って書類を作成した上で取次をしている場合は、「取次だけ」ではなく、書類作成業務を含む実質的な関与をしていることになります。この場合、名義貸しの問題は生じにくくなります。
つまり、問題は「馴染みの先生に依頼すること」ではなく、「先生が実質的に関与せず、形式的に名義だけ提供している」ことにあります。
リスクを下げるための代替構造:3つのパターン
このケースの本質は「行政書士の関与を実質化すること」にあります。以下の3つのパターンが考えられます。なお、いずれも形式だけでなく実態を伴うことが前提となります。
ポイント:職務基本規則第61条第3項は、申請取次行政書士が「申請人又は入管法上の代理人から直接依頼を受けることなく、第三者を介して依頼を受けた申請取次をしてはならない」と規定しています。本記事で「申請人又は入管法上の代理人」と記載するのは、この規律を踏まえた表現です。所属機関が当該手続における入管法上の代理人に該当する場合は、所属機関を含みます。
パターンA:馴染みの行政書士に、書類作成から取次まで一貫して依頼する
構造:最もシンプルな是正です。これまで「取次だけ」をお願いしていた行政書士に、書類作成・内容判断・本人確認・取次まで一貫して実質的に担ってもらう構造に移行します。登録支援機関は事実情報の提供と連絡補助にとどめます。
委任契約は申請人又は入管法上の代理人と行政書士の間で直接成立させる必要があります。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 既存の信頼関係を活かしつつ、構造を明快にできる |
| デメリット | 行政書士の工数・報酬の増加、これまでの役割分担の見直し |
| 向く規模 | 既に信頼できる行政書士との関係がある登録支援機関 |
パターンB:役割分担を明確化し、書類作成の判断を行政書士に委ねる
構造:登録支援機関は、事実情報の収集・整理、申請人との日程調整、資料授受の補助など、判断行為に踏み込まない範囲の補助にとどめ、書類作成のすべての判断を行政書士が行う構造です。
この場合、以下の点が実態として担保されている必要があります。
- 記載内容の決定・申請方針の判断を行政書士が行っているか
- 登録支援機関側で書類の実質的な作成・修正が行われていないか
- 本人確認を行政書士が適切な方法で行っているか
- 行政書士の報酬と登録支援機関の支援・補助の対価が、契約・請求・会計上明確に区分されているか
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 登録支援機関の業務効率を一定程度保ちつつ、書類作成主体を行政書士に明確化できる |
| デメリット | 「補助」と「実質的作成」の境界を実態として運用する難易度 |
| 向く規模 | 一定の申請件数があり、役割分担を精緻に設計できる中規模組織 |
パターンC:申請人本人・所属機関が主体となり、行政書士が確認・取次を担う
構造:申請人本人または所属機関が書類の準備に主体的に関与し、行政書士が内容を実質的に確認した上で取次を行う構造です。ただし、申請方針の判断、記載内容の選択、理由書等の作成といった法的判断を伴う場面では、行政書士が実質的に関与する必要があります。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 申請人本人・所属機関の主体性を制度的に位置づけられる |
| デメリット | 申請人・所属機関側のリソースが必要、書類作成を伴う場面では行政書士への切り出しが必要 |
| 向く規模 | 所属機関側に申請業務に習熟したスタッフがいる場合 |
いずれのパターンを採用するかは、規模・案件数・行政書士との関係性・コスト構造によって異なります。重要なのは、「取次だけお願いしているから大丈夫」という前提を一度立ち止まって整理し、行政書士が実質的に関与する構造になっているかを確認することです。
おわりに:「取次だけ」をお願いしている登録支援機関のチェックポイント
馴染みの行政書士に取次を依頼している登録支援機関の経営者・コンプライアンス担当者の方は、以下の点を改めてご確認ください。
- 行政書士は、書類の内容を実質的に確認・検討しているか
- 行政書士は、本人確認を適切な方法(面談等)で行っているか
- 書類作成の判断(記載内容の決定・申請方針)を誰が行っているか
- 行政書士は、申請人又は入管法上の代理人から直接依頼を受けているか
- 「取次だけ」が、実質を伴わない形式的な名義提供になっていないか
- 報酬の流れ(書類作成報酬と支援・補助の対価)が明確に区分されているか
これらを整理した上で、必要に応じてパターンA〜Cのいずれかへの移行を検討されることをお勧めします。
行政書士の実質的関与を仕組みで担保する
「取次だけ」が名義貸しに陥らないためには、行政書士が書類の内容を実質的に確認し、本人確認を行い、自らの判断で取次を行う構造を、運用として確実に担保する必要があります。しかし、業務マニュアルや個人の意識だけでは、忙しさや信頼関係を理由に実質的な確認が省略されてしまうリスクが残ります。
RakuVisaは、登録支援機関・行政書士・所属機関・申請人本人の4者をシステム上で連携し、改正行政書士法に対応した業務フローをシステムとして実現しています。
- 権限の分離が設計に組み込まれている:登録支援機関のアカウントからは事実情報の提供のみが可能で、書類の自動生成は行政書士アカウントでのみ実行可能です
- 実質的関与の担保:WEB面談(自動録画)とオンライン署名・eKYCによる本人確認・同意確認が完了しない限り、申請の電子ボタンが活性化しない設計になっています
- 証跡の自動保存:行政書士がいつ・どの判断を行ったかの証跡が、システム上に記録されます
ポイント:RakuVisaは産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度を通じて、総務省から「当該システムの提供は、行政書士法第1条の2第1項に規定する事務を業として取り扱ったとの評価まではされない」との回答を取得しています(令和7年2月6日付)。
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