ツールが書類を出力しているから、自社が作成しているわけではない
この記事の概要
- こんなケース、ありませんか?
- 法的にはどう整理されているか
- 書類作成の「主体」は誰か
- 総務省グレーゾーン解消制度回答(令和7年2月6日付)
- 入管庁注意喚起における「自ら入力」の評価
- 改正法第19条「いかなる名目によるかを問わず」との関係
- 両罰規定による法人へのリスク
- 例外的に許容される構造はあるか
- リスクを下げるための代替構造:3つのパターン
- パターンA:行政書士が利用者として書類生成を行う設計のツールを採用する
- パターンB:申請人本人または所属機関が利用者として入力する構造を採用する
- パターンC:ツールを使わず、外部の独立行政書士事務所に書類作成・申請取次を依頼する
- おわりに:ツールを導入している登録支援機関のチェックポイント
- 書類作成主体を整理する仕組みの一例
「最近、便利な入管申請ツールを導入しまして、情報を入れれば書類が自動生成される仕組みになっています。これなら、当社が書類を作成しているわけではないので、行政書士法上の問題もクリアできますよね」─DX化が進む登録支援機関の現場で、よく聞かれる説明です。
たしかに、ツールやシステムが書類を「出力」している以上、登録支援機関が「作成」しているわけではない、と整理したくなる感覚は自然です。しかし、改正後行政書士法第19条第1項は、ツールを介在させた構造にどのように及ぶのか─この点は整理して理解する必要があります。
ポイント:本記事は、入管申請関連ツールの利用自体を問題視するものではありません。ツールは、行政書士、申請人本人、所属機関、登録支援機関の業務効率化に資する有用な手段です。問題となるのは、ツールの存在を理由に、誰が申請内容を判断し、誰が官公署提出書類を作成しているのかという実質的な評価を曖昧にしてしまうことです。
こんなケース、ありませんか?
「在留資格申請のクラウドツールを導入して、業務効率化を進めています。お客様情報や雇用条件を入力すれば、ツールが自動で申請書類を生成してくれるので、当社のスタッフが書類を作っているわけではありません」
「うちの担当者は、ツールの操作とお客様のサポートを担当しているだけです。書類自体を作成しているのはシステムですから、行政書士法の話とは別次元だと考えています」
「ツールを使うことで作業時間が大幅に削減できましたし、ミスも減りました。同業他社さんでも同じようなツールを導入しているところは増えていますし、業界全体のDX化の流れだと認識しています」
特定技能制度の受入れ実務において、申請書類の作成は煩雑な作業の一つです。DX化のニーズは業界全体で高まっており、ツール・システムの導入は経営判断として合理的な選択です。
そして「ツールが書類を出力している」という事実は、感覚的には「自社が作成しているわけではない」という整理に直結します。「実際に画面上で文字を打ち込んでいるのはシステム」「PDFを生成しているのはツール」─こうした技術的な事実が積み重なると、「自社が書類作成行為を行っているわけではない」という認識に至るのは自然な流れです。
法的にはどう整理されているか
ツールを介在させた構造であっても、改正後行政書士法第19条第1項の評価は、技術的な仕組みではなく実質に着目して行われると整理されます。
書類作成の「主体」は誰か
改正後行政書士法第19条第1項は、行政書士又は行政書士法人でない者が、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として」第1条の3に規定する業務を行うことを禁じています。
ここで問題となるのは、「書類作成行為の主体は誰か」という評価です。ツールが書類を出力していること自体は、評価上の決定的な要素にはなりません。重要なのは、以下のような実質的な要素です。
- 誰が申請内容を判断しているか
- 誰が情報を入力・編集・修正しているか
- 誰の業務として書類が完成しているか
- 誰が顧客から対価を受領しているか
登録支援機関の担当者が、顧客から対価を得て、申請内容を判断し、ツールに情報を入力し、出力された書類を業務として顧客に提供している場合、ツールを介在させていたとしても、書類作成の主体は登録支援機関であると評価される余地があります。
総務省グレーゾーン解消制度回答(令和7年2月6日付)
この論点については、産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度を通じて、総務省から重要な見解が示されています。
令和7年2月6日付の回答において、総務省は、システムを介して申請書類を作成する場面における書類作成の主体について、以下の趣旨の整理を示しています。
一般的に、事業者が一定の入力フォームを用意し、同利用者が自己の判断に基づいてその入力フォームに用意された項目に一定の事項を入力して申請書類等を作成する場合、当該書類の作成者は利用者本人であって、当該システムの提供は、行政書士法第1条の2第1項に規定する事務を業として取り扱ったとの評価まではされない。
⚠ 注意:この回答は、照会書に記載された具体的な事業活動を前提とするものです。したがって、あらゆる申請関連ツールや、あらゆる運用について包括的な適法性を確認したものではありません。実際の評価は、誰が利用者として入力しているか、誰が申請内容を判断しているか、行政書士がどの段階でどのように関与しているか、対価の流れがどう設計されているかといった具体的な運用実態によって左右されます。
この回答からは、少なくとも、ツール提供者が一定の入力フォームを用意しているというだけで、当然にツール提供者が書類作成主体になるわけではない、という整理が読み取れます。
他方で、登録支援機関の担当者が、顧客から対価を受ける業務の一環として、申請内容を判断し、ツールに情報を入力・編集し、書類を提出できる形式で出力し、出力された書類を顧客に提供している場合には、ツールではなく登録支援機関側が実質的な書類作成主体と評価されるリスクがあります。
入管庁注意喚起における「自ら入力」の評価
入管庁は、在留申請オンラインシステムの利用案内において、行政書士以外の利用者に対し以下のように案内しています。
弁護士及び行政書士以外の方が、業として、申請人又はその法定代理人などから手数料を得るなどして自ら在留申請オンラインシステムに申請情報を入力した場合、弁護士法違反又は行政書士法違反となることがありますのでご留意願います。
この注意喚起は、在留申請オンラインシステムへの入力を念頭に置いたものです。もっとも、第三者ツールを利用する場合でも、登録支援機関の担当者が、顧客から対価を受ける業務の一環として、申請内容を判断し、申請情報を入力・編集し、出力結果を申請書類として利用している場合には、同様に行政書士法上のリスクが問題となり得ます。
したがって、「在留申請オンラインシステムに直接入力しているわけではなく、外部ツールに入力しているだけだから問題ない」という整理は、安全とはいえません。
改正法第19条「いかなる名目によるかを問わず」との関係
改正後行政書士法第19条第1項は、「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」と明記しています。総務省通知(総行行第281号・令和7年6月13日)が直接述べているのは、手数料、コンサルタント料等の名目にかかわらず、実質的に官公署提出書類等の作成の対価を受けることは許されない、という点です。
もっとも、この趣旨からすれば、料金名目だけでなく、「ツール利用料」「システムサポート費」「DXサービス料」といった形式であっても、その実質が書類作成業務の対価と評価される場合には、改正後行政書士法第19条第1項との関係でリスクが残ると考えるべきです。
「ツールを介在させているから書類作成ではない」という形式論は、改正法の趣旨との関係で十分な根拠とはなりにくい、というのが現在の整理です。
両罰規定による法人へのリスク
改正後行政書士法第23条の3により、第19条第1項違反等について、行為者本人に加えて、法人にも100万円以下の罰金が科され得ます(罰則:改正後行政書士法第21条の2)。
⚠ 注意:ツールを導入していること自体が違法と評価されるわけではありませんが、その運用の実質によっては、法人としての登録支援機関も処罰対象となり得る構造です。
例外的に許容される構造はあるか
「では、登録支援機関は申請関連ツールを一切使えないのか」─そうではありません。重要なのは、ツールの存在ではなく、書類作成の主体が誰であるかという実質的な構造です。
ケース1:ツールが行政書士の業務として書類を生成する構造
ツールの利用者が行政書士であり、行政書士が自らの判断と責任で申請内容を確認・編集・最終確定している場合、書類作成の主体は行政書士本人です。ツールはあくまで業務効率化のための手段であり、書類作成の主体性に影響しません。
この場合、登録支援機関は事実情報の提供や連絡補助という限定的な役割にとどまり、書類作成行為そのものは行政書士が担う構造になります。
ケース2:申請人本人または所属機関が利用者として入力する構造
利用者本人が自己の判断に基づいて入力フォームに情報を入力する場合、書類作成の主体は利用者本人と整理されます。
申請人本人または所属機関の職員が利用者として登録され、自らの判断で情報を入力し書類を生成する構造であれば、行政書士法第19条第1項は登録支援機関には及びにくくなります。ただし、申請方針の判断、記載内容の選択、理由書等の作成といった法的判断を伴う場面では、行政書士に切り出す必要があります。
ケース3:登録支援機関が、所属機関として自社雇用の外国人について申請する場合
改正後行政書士法第19条第1項は「他人の依頼を受け」が要件です。自社雇用の外国人について自ら申請を行う場面では、形式上「他人の依頼を受けて」いるとは評価されにくく、論点が異なります。
つまり、「ツールがあるから大丈夫」ではなく、そのツールを誰が利用者として使い、誰が書類作成の主体として位置づけられる設計になっているかが、評価の分岐点になります。
リスクを下げるための代替構造:3つのパターン
ツールを活用しつつ、書類作成の主体性を整理するためには、以下の3つのパターンが考えられます。なお、いずれも形式だけでなく実態を伴うことが前提となります。
パターンA:行政書士が利用者として書類生成を行う設計のツールを採用する
構造:ツール上で書類の自動生成・編集・最終確定を行う権限が、行政書士アカウントに限定されている設計のツールを採用する構造です。登録支援機関は事実情報の提供までを担い、書類生成の判断・実行は行政書士が行います。
委任契約は申請人又は入管法上の代理人と行政書士の間で直接成立させ、行政書士の関与が形式的なものでなく実質的なものであることが前提となります。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | ツール活用による業務効率化と、書類作成主体の明確化を両立できる |
| デメリット | ツールの設計次第。権限分離が設計されていないツールでは成立しない |
| 向く規模 | DX化を進めたい登録支援機関全般 |
パターンB:申請人本人または所属機関が利用者として入力する構造を採用する
構造:ツールの利用者を申請人本人または所属機関の職員に位置づけ、自らの判断で情報を入力する構造です。登録支援機関の担当者は、画面操作の補助、用語の一般的説明、必要資料の案内など、判断行為に踏み込まない範囲の補助にとどめます。
申請方針の判断、記載内容の選択、理由書等の作成といった法的判断を伴う場面では、行政書士に切り出す必要があります。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 申請人・所属機関の主体性を制度的に位置づけられる |
| デメリット | 申請人・所属機関側の負担、書類作成判断が必要な場面では別途行政書士への切り出しが必要 |
| 向く規模 | 所属機関側に申請業務に習熟したスタッフがいる場合 |
パターンC:ツールを使わず、外部の独立行政書士事務所に書類作成・申請取次を依頼する
構造:社内でのツール利用そのものを行わず、書類作成・申請取次は外部の独立行政書士事務所に依頼する構造です。
登録支援機関は、生活支援、相談対応、支援実施状況の管理、資料回収、行政書士との連絡補助など、行政書士業務に踏み込まない範囲の業務にとどめます。入管に提出する書類の作成、記載内容の選択、申請方針の判断、理由書等の作成は、行政書士又は依頼者本人側で行う必要があります。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 構造的に最も明快で、ツールの設計を吟味する必要がない |
| デメリット | DX化のメリットを直接享受しにくい、案件ごとの連携工数 |
| 向く規模 | 申請件数が少〜中規模で、外部行政書士との連携で十分な場合 |
いずれのパターンを採用するかは、ツールの設計、規模・案件数・所属機関側のリソース・コスト構造によって異なります。重要なのは、「ツールが書類を出力しているから自社は作っていない」という形式論を一度立ち止まって整理し、書類作成の主体が誰であるかを実質的に確認することです。
おわりに:ツールを導入している登録支援機関のチェックポイント
入管申請関連のツール・システムを導入している登録支援機関の経営者・コンプライアンス担当者の方は、以下の点を改めてご確認ください。
- ツール上で書類の生成・法的判断を行っているのは誰か(登録支援機関の担当者か、行政書士か、申請人本人・所属機関か)
- ツールへの入力項目のうち、単なる事実情報と、申請方針・該当性判断・理由付けに関わる項目が区分されているか
- 行政書士が、ツール上で生成された書類を確認するだけでなく、必要に応じて修正・差戻し・最終確定できる権限を持っているか
- ツールの設計上、書類作成権限の分離が組み込まれているか
- 行政書士と申請人又は入管法上の代理人との直接の委任関係が、契約・画面表示・ログ上も確認できるか
- 操作ログ上、誰が入力し、誰が編集し、誰が最終確定したかを後から確認できるか
- 顧客からの対価が、書類作成の対価ではなく、支援業務・資料回収・連絡補助等の対価として説明可能か
- 「ツールが出力している」という事実だけで、自社が書類作成の主体ではないと整理していないか
これらを整理した上で、必要に応じてパターンA〜Cのいずれかへの移行を検討されることをお勧めします。
書類作成主体を整理する仕組みの一例
「ツールを介在させても、書類作成主体の評価は実質に着目して行われる」──この整理を踏まえると、ツールの設計段階で書類作成主体を明確化しておくことが、コンプライアンス上の重要な要素になります。
RakuVisaは、登録支援機関・行政書士・所属機関・申請人本人の4者をシステム上で連携しつつ、書類作成主体を行政書士に明確化する設計を採用しています。
- 権限の分離:書類の自動生成・編集・最終確定を行う権限は行政書士アカウントに限定されており、登録支援機関のアカウントからは事実情報の提供のみが可能です
- 行政書士の実質的関与の担保:行政書士による面談と申請人本人の本人確認・同意確認が完了しない限り、申請の電子ボタンが活性化しない設計です
- 操作ログの保存:誰が入力し、誰が編集し、誰が最終確定したかをログとして記録し、後から検証可能な構造になっています
ポイント:RakuVisaは、産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度を通じて、総務省から「当該システムの提供は、行政書士法第1条の2第1項に規定する事務を業として取り扱ったとの評価まではされない」との回答を取得しています(令和7年2月6日付)。この回答は、当社の具体的な事業活動を前提として確認したものであり、あらゆる類似サービスの適法性を確認したものではありません。
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RakuVisaは行政書士が必ず介在する設計により、改正行政書士法に対応したコンプライアンス体制をシステムとして実現しています。

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